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Wednesday, July 18, 2018

読書感想「モンスター」




「モンスター」 東野圭吾

なんとなくではあるけど、おもしろかった。

500ページ近い大作で、
「整形しても別人の顔になっても、別人格にはなれない」
「男は結局、女の容姿(セックスアピール)に惹かれる」

が描かれる。


絶世の醜さで生まれてきて、呪いのように「美」を求め始める主人公の女性は、これでもか、と整形を繰り返す様はあっぱれで、そこからの描写は、面白いように軽快だ。
まずは二重まぶたの埋没法、次に鼻、インプラントで美しい歯を手に入れ、さらに目を直し、顎の骨を切り取る大手術(そのために和子は、噛む力が極端に弱ってしまう)……。他にも数え切れないほどの施術をしたおかげで、絶世の美女となる。
その美貌に、世の男たちは次々と虜になる。
しかし未帆は、かつて愛したクラスメイトの英介を忘れられない。やっぱり「英介」に愛されたい。38歳になり、そう願った未帆は大金をつぎ込んで、故郷にレストランを開く。店にやってくる男たちの中に、英介がいることを信じて。
既婚していた英介は、案の定絶世の美女へと変貌を遂げた未帆未帆に惹かれ求愛するが、「妻とは別れられない」と言う。不倫男性の定型句だ。10年以上、体を酷使してきた未帆にはもう、時間がなかった。美帆は「結婚してくれないなら、あなたとはもう会わない」と告げる。動揺した英介は怒りを露わにし、言い争いになる。そんな未帆を「くも膜下出血」が襲う。死を悟った未帆は、「私の、本当の名前は和子。和子でも好きでいてくれる?」と明かす。彼女は結局、整形で美人になっても、「別人」にはなれなかったのだ。元のままの「私」を愛して欲しかったのだ。が、英介は口先で「ああ、好きでいるよ」等と答えつつ、結局、和子を見捨てる。「なんだ、元はあのブス女だったのかよ……」という感じだろうか。くも膜下出血の未帆を「ほうって逃げた、最低の男」だったのだ。それでも「和子」は、英介に愛されたいとの願いが一瞬でも叶って、幸せそうに死んでいった。おしまい。


「1人の男に愛されたいがために整形し、風俗で体を酷使して死ぬが、本人は幸せだった女の話」
これは「悲劇」だろうか、それとも「喜劇」だろうか。
この読後感の悪さはなんなんだ!
ちょっと意地悪なエンタメ的ストーリー。


Wednesday, July 11, 2018

読書感想「草祭」





「草祭」  恒川光太郎

相変わらず、不思議な空間情景にトリップさせてくれたショートストーリーは、登場人物が繋がっていて、各ストーリーは好みがあると思う。

なんとなしに、ゲゲゲの鬼太郎の世界と似ている。

世にあるものはみんな多かれ少ないかれあやふやなバランスにあるものだ。
何か一つの要因をずらしたり、入れ替えたりしたらフッと消えてしまう。

自分のいる(と思っている)場所だって、本当は夢の幻想の中かもしれないし、別世界にワープしているのかもしれない。

脳だって当てにならないものだ。

色々忘れっぽくなってくると、「脳だって当てにならない」というのはつくづく感じる。

Thursday, July 05, 2018

読書感想「OUT」





(上)(下)とかなりの長編で、全編通して陰鬱としたくらーい雰囲気。
まあ、それなりに面白いけど、あまりの長さに(下)の中間以降は「もういいよー、早くさっさと終わりにしようぜ〜」みたいな。


どこにでもいる普通の主婦達が、ひょんな事から犯罪に手を染めてゆく。
その過程は止まらない歯車を連想させる。
人は、あまりにも簡単にまともな精神を失うことが出来るのだと思うと恐ろしい。
自分だけはこうならない、と言えるだろうか?

いや〜やっぱり、普通だった人間が貧困のためこうまで人を毀す事ができるのかなあ。。。


佐竹とまさこはグロいし、後半私には到底理解しがたい闇が広がっていて、読み終わった後もなんにも感動もないのが残念。
こんな長編なのに。。。


Wednesday, June 20, 2018

読書感想「プラチナデータ」




さまざまな作品が映画化されている東野圭吾の小説。

個人的に科学ミステリーは好きだ。

その中でも特別個人的好みを言わせてもらえば、この「プラチナデータ」、
ストーリーの緻密さや心理的深さの表現、色気がちょっと足らなかったかなあ、と感じところ。



実際の犯罪現場から検出されたDNAから、 膨大なデータベースとの一致を検索し、 犯人を特定するプログラム。

 革命的システムの裏に隠された陰謀とは? 

鍵を握るのは謎のプログラムと、もう一人“彼” である犯人。




でも背後で最もストーリーの印象を濃くしているのは、まぎれもない多重人格という厄介なキャラクターだ。
自分は本来どんな人物なのか、
本当に存在しているのか、
存在意味や心がもとない、人間という生き物の心の謎について語りたかったのではないか。


Tuesday, June 12, 2018

読書感想「あなたには帰る家がある 」




あなたには帰る家がある    山本文緒


それぞれの登場人物が普通ながらも個性ありきで、結構リアルな構成。

発表時がまだ携帯電話がおもいっきり普及していなかったのでポケベルが出てくる。
ストーリー自体25年前の作品とは思えない。
2018年が舞台でも何も違和感がない。

それは、裏を返せば、夫婦や家庭の問題は、当時から、いや昔から何も変わっていない、未来も何も変わらないということか。

結婚とは何だろう。

幸せとは何だろう。


夫婦って忍耐と思いやりだなとつくづく感じたけど、でも綾子みたいな女にだけにはなりたくない。

Thursday, June 07, 2018

読書感想「月の満ち欠け」




月の満ち欠け

2017年上期の直木賞、佐藤正午の「月の満ち欠け」。

「虚構と現実をさ迷う純愛物語」という表現をされている。
明らかにフィクションだろうが、佐藤正午氏のよく考えられたストーリーライン、熟練した文章力と不思議な説得力は読書後も唸らずにはいられない。
なんでこの人はこんなに上手なんだろう。
あんなに、のんびりとしたルックスで、こんなにも情熱的な小説を書くとは。。。


言い方によっては怨念、ミステリー的なので一見恋愛がメインには見えないのだけれども、実は愛がテーマとなっている小説なんだという印象を受ける。
恋愛にありがなりがちなチープストーリーではない、何よりも「生まれ変わっても人を愛する」という想いの強さがテーマなのではないかな、と思う。


Friday, June 01, 2018

読書感想「ブルーもしくはブルー」



「ブルーもしくはブルー」



ドッペルゲンガーのお話。



自分と同じ人物がどこかにいて、偶然その自分に出会い、2人で何かを(夫のいる家にそれぞれ入れ替わる)実行するというストーリーで、女性ならでのドロドロとした悪意の中にも女性の細やかな心理が全体に流れている。


ひたすら愛というものに疑問を投げかけ、
そのテーマに投げかける疑問は半端じゃなく、懐疑的で、深く頷くこと然り。



このドッペルゲンガー、自分の身に起こったらどうだろう?



私たちは見たいものしか見ていない。

比喩的にだけでなく、文字通りにも、生理学的にもだ。各自の認知能力は、目的を果たすために調節されている。



誰もが倫理と意味を求める本能を持ってこの世に生まれてくるのだけれど、
人間は何か少しでも理解できるのかどうかさえ、私は疑問だ。

世界は、私たちが考えているようには存在していないのではないかとも思う。


Tuesday, May 22, 2018

読書感想「麦の海に沈む果実」




麦の海に沈む果実    恩田陸


ゴシック調の閉鎖された特殊な学園内部で起こる殺人ホラー風作品。
不気味に閉ざされた空間。
学園ミステリーなんだけど、とても薄ら寒い感じのする世界観でゾクっとするストーリーがたまらない。

情景が鮮明に頭に浮かんで来る。



隔絶した学園に転校させられた水野理瀬の過ごす四季、奇妙な校長や風変わりな生徒達の中で、後から続けざまに起こる殺人、校長の企みはなんなのか?、理瀬の正体は?、麗子は結局どこにいるのか?、誰が犯人なのか?



「三月は深き紅の淵を」という謎の本は誰が書いて誰が持ってるのか?、これでもか、と謎は山積みだ。

この本「三月は深き紅の淵を」と「黄昏の百合の骨」という本物の小説がどうやら続き物であるらしく「三月シリーズ」と言われていることも判明した。

なんとも続きがあったら読みたいと思って検索してたらわかった。




今気がついたんだけどね、赤川次郎っぽくもあるかな。


Wednesday, May 16, 2018

読書感想「アヒルと鴨のコインロッカー」





アヒルと鴨のコインロッカー   



これも映画化されてたー!
ちょっと悲しい結末と
雰囲気が春樹小説を思い出させる。


最近の読む本には、現在と過去の話が繰り返される時間軸が違うストーリーが多いな。
手法が流行りか??


ペット殺しの若者には怒りをたぎらせながら読んでいたので、琴美には感情移入した。だから余計に琴美の最期は残念だ。
ストーリーや人物が複雑に絡み合っているので、あらすじを事細かに書いても、本当の面白さは伝わらないかも。



ストーリー中のぼやけていた事実が終わりに近づくにつれ、真実がはっきり見えて来るので、切なさがどんどんこみ上げてくる。



動物を虐待する人間は許せない。



映画も見てみたい。


Monday, May 07, 2018

読書感想「遥かなる水の音 」




遥かなる水の音   


なんかいろんな賞をとっているみたい。



病に倒れた青年の遺灰を撒く為のフランスからスペイン、モロッコ、そしてサハラ4人の旅。
それは長い長い葬列の道行き。
亡き青年の心に思いを馳せて旅を続けるうちに、人生観が変わって行く。




旅路の描写はとても良くて、話し手をくるくると変えていく手法においてのそれぞれの心のタッチが繊細で、全体を流れる雰囲気は◯だったけれども、登場人物の魅力は感じなかった。
特にメンバーの2人(恋人同士)である結衣の浩介への感情的過ぎる邪見な態度にムカムカとした。




死んだ人物による心の描写もあって、死人もぼんやりと愛する人たちや親しい人たちを眺めながら、ちょっと自分の思いが感じられるのだが、それが結構リアルだった。本当にこうだったらいいなあ。


Tuesday, April 24, 2018

読書感想「カエルの楽園 」




カエルの楽園



帯に「これほどの手応えは、わたしの最高傑作だ!」「全国民に問う衝撃の結末」
と出ているほど衝撃的ではなく期待を裏切られた。



子供の絵本的な語り口で、可愛いカエルの冒険ストーリーかと思いきや、平和・民主主義・正義・自由とは何かを考えさせられる世界の社会、政治的な内容だ。



2匹のカエルが垣間見る新しい世界の出来事に対して、正しいのか、間違っているのか、善なのか、悪なのか、そして自分の判断はどう思うのか?
と同じような迷いをしながら、最後まで延々と続くストーリーにちょっと飽きが来てしまった。



結局どの国にも完璧な楽園などというものはなく、その時その時の平和を守り、つくっていかなければならないのだ。そして、周りに流されず自分で見たものを判断し続け、動き続けるることが重要なのだ。
政治家・民衆の思想や言論を統制するマスコミに流されぬよう。







Wednesday, April 18, 2018

読書感想「東京島 」





東京島


第44回谷崎潤一郎賞受賞作。
わたしは映画は見ないたちなので、随分前に映画化になっていたのは知らないで読んだ。



このストーリーのキャストに本物の人間をつけるとしたらちょっと想像つかない(日本の俳優はほぼ知らないけど)と思いつつ、インターネットで映画予告を検索して見たら、この野生環境でほぼみんな狂人化しているのにみんなイケメン!と、自分の読書の中での想像とキャストの落差におののく。




無人島での31人の男たちと、ただ一人の女の清子のサバイバル物語。サバイバルのいろいろな状況展開のなかで、生きていくというのはどういうことかを浮き彫りにしている。




食べ物はどうにか足りるし、気候も厳しくはないが、周りは自然のみ・・都市から来た文明人に虚無的なものを突きつけている。
そして、その環境での人間の強さと弱さとを含む本質を描こうと試みている。




男と女の関係性の本質、男たちの集団というものの本質、極限での食欲と性欲への飢餓や、それらの順位の逆転、、、文字の抽象化と記録の力、宗教の意味、そして事象が一つ変わるごとに集団の質も変化する様はとっても巧みに書かれていて、その都度変化する1人女性の心理も描いている。





最後のちょっとのところで、数度にわたるストーリーのどんでん返しは、予想をコロコロと変えられ今までに経験したことのない読後感だった。

Monday, April 02, 2018

読書感想「放蕩記 」





「放蕩記」


よかったなー。

超長編はやっぱりいい。

その世界に長時間のめり込むから読書後の余韻も長くなるのが長編の魅力だ。



「半自伝的小説」と帯に書いてある。
村山さんのお母様とご本人の小説なのだろう。


女というものはこんなにもホルモンが複雑なのであって、母親に抱く違和感は娘なら多くの女性におぼえがあるだろう。

時として私もその一人だ。

親子時代、小説のような波乱は全然なかったけど、
大人になるにつれ、どうして時として嫌悪感が生まれてしまうのか、自分の感情に不信感を持つ頃。

第三者から見てもあんなにいい母親なのに、
好きな親だからこそ、そして優しい娘を演じていながら心の中ではちょっと突っ張ねてしまう頃。

ひねくれた自分の気持ちに今度は自分自身に嫌悪を感じる頃。

親子といえども、個々の人間であり、娘が成長するにつれて相性があるということを知らされる頃。

自分自身の理論や感情がうまく噛み合わない心の中。

表面的にはとても仲良くやっているけど「親子だけど気が合わない」ということへの罪悪感。





確執の共感にホッとした女性読者も多かったのではないだろうか?



どんな親だって子供に対して無償の愛も持っている。
私たち人間はそれを知っているからこそだんだんお互いが歳を取ってくるとそんなことを突き詰めて考えることはあまりなくなってくる。

年老い、呆けて、小さくなっていくその姿を受け入れて娘は、母を愛おしいと強く思うようになる。

生まれ出て初めて成立した自分の存在は、わたしの中に彼女と同じ血が脈々と流れているということだ。




小説の中の毒親は、こりゃ頑固厳しすぎるわと思い、でも関西弁と父親のとぼけた語り口が楽しく読ませていただいた。


Monday, March 26, 2018

読書感想「ブルーアウト 」





ブルーアウト






鈴木光司の小説は昔から結構好きなのだ。

1ページ1ページがクリアでスッキリとした文、ひねくれたところが全然ない、それでいて全体のストーリーは緻密に練ったもので、野性と知性がミックスされたストレートな感触。

人間の優しさと愛に満ちていて、いつもロマンがある。

スポーツマンの明快さが文章に現れていて、読み終わった後も、後味が悪くない。



物語は、1890年に串本沖で遭難したトルコの船の史実に基づいていて、
過去と現在を交互に125年という時を経て因縁の糸がつながる命をかけた冒険だ。


鈴木さん自身もヨットを所有し、豊富な航海経験を持ちダイビングもやるそうだ。

自然に立ち向かい、常に危険と隣り合わせの海でその怖さを知り尽くした著者の経験も織り込まれている、危険な状況の描写は臨場感と迫力がある。



そして自然の懐の深さは私たち人間に生きるための哲学を教えてくれる。