『日本人にとって近くて遠い、なのに懐かしいマレーシア』

 日本人にとって近くて遠い、なのに懐かしいマレーシア

 思えば22年前、私は友達に「マレーシアに住むことになったからさあ」と告げると、その友達は「ふーん、マレーシアアァァ・・・」となんだかわかったのかわからないのか気の抜けた返事をした。
数日後、その友人と会った時、彼女は「あのさあ、マレーシアについてちょっと調べてみたんだけどさあ、なんかマレーシアって、他の東南アジアの国と比べるとすっごく平和だから、かえって何もニュースにならないで情報が少ないみたいなのね」と言った。
私は「良くも悪くもニュースがないマレーシアかあ・・」とそれこそあいまいな気持ちで、よく本屋さんへ情報探しに足を運んだものだ。

 17年前というと、本当にマレーシアに関する情報本は少なかった。あっても世界・アジアの事典のように、ちょっと硬めの内容で国の概要や特徴、宗教、日本との経済関係を述べただけのもので、個人で執筆されているのは、数冊だったように思う。あまり生きた情報、実際そこに長年住んでいる人たちが得たツボをおさえてくれた本はゼロだったのである。

 それが、今はどうだろうか。出てる、出てる、レストランガイドやゴルフガイドの詳細から、マレーシアに滞在経験をして、その魅力に取り付かれてしまった人による個人の体験談。 
それもそうだ、こんなにおもしろいマレーシアなのに、平和そのもので何も語るべきものがない、というのはおかしい。もちろん、マレーシア側だって、外国人投資に大手を広げて歓迎しているわけだから、それなりに、観光やホテル、娯楽にも開発を投資してきた。

 マハティール政権に幕を閉じ、2003年11月からアブドゥッラー首相、2008年ナジブ新首相となっても、同じポリシーが継続しているマレーシアは、近隣諸国に比べても間違いなく穏健な国だ。それはおそらく、経済がすばらしく成長したからに他ならないと思う。
インフラストラクチャーの整備も確実に進んでおり、クアラルンプール新空港、ツインタワーを中心としたKLシティーセンター、そして新行政首都移転を含んだマルチメディアスーパー回廊、と矢継ぎ早に超巨大投資をしながら、2020年までに先進国入りを目指している。
社会的に不満やアンバランスな整備が少しはあるものの、経済が発展して人々の生活がそれなりに豊かになっていく状況が実感でき、各民族間に経済格差があるとはいえ、それが紛争を呼び起こすほどひどくなく、政府はこの格差をなくすために手を尽くしている。
それにマレーシアは、マレー系、中国系、インド系そして多数の部族に分けられる先住民で構成される多民族国家。それぞれの民族が持つ宗教(イスラム教、仏教、儒教、ヒンドゥー教 、キリスト教、原住民信仰)や、生活習慣、文化は混じり合っているようで、混じり合わない。
お互い影響され、よい部分は取り入れているところもあるから面白い。こうして融合は独特な文化を生み、マレーシアの魅力のひとつを創り出していて、こうした調和こそが、アジアのよいモデルケースとなっている。



 最近、シニアの海外ロングスティがクローズ・アップし始めている。
 日本では、毎日のように、しかもゴールデンアワーに、自分の意思で海外に住もうと決意し、海外で生活をしているシニアのひとたちの生活ぶりをカメラに収め紹介したり、どこの国がシニアのロングスティには最適か、いろんな情報を流しているそうだ。
見た人は、当然「わぁ~。こんな簡単にできるのなら、私もしてみたいわ~」と思うだろう。それにまして、テレビで移っている人達は、新しい人生で、新しい環境で、何もかもが楽しく、なんやらはりきっていて、輝いて見えるのである。
そこでまた、自分の置かれた日本での生活状況を見て思う。「あーあ、こんなマンネリ化した日本から私も出て、違う人生を楽しんでみたいわー」と。
しかし、ここで注意しなければならないのが、大体マスコミで紹介されている人達は、その方法を選択して成功をしている人達である、多くの失敗してしまった人達は映されない。
実際、入念な準備も怠って、さまざまな理由から挫折して帰国している人も大勢いるのだ。
 海外生活が長かったり、旅慣れている人ほど、退職後には外国に住むということを単なる憧れとしてではなく、具体的に考えている人が多いようだ。そして駐在員時代に思うのだ。
「こんな住みよいところなら、リタイアした後にものんびりと暮らしたいなあ・・・」と。
そして実際そういった人達が年々増えている。この20~30年で海外は本当に近くなった。
その中でも、東南アジアはもっと近い。今のシルバー層の時間と暇はたっぷりある。
そして世界一物価の高い日本での年金生活は決して楽とはいえない中、大金持ちではない一般の人にとっても海外のロングスティは夢ではなく、現実になったのだ。
 
 今の定年退職者以上という年代は、戦後日本復興時代に、がむしゃらに働いてきた人たちだろう。
仕事はつらいもので当たり前と捕らえてきた人も多いかもしれない。やりたいことも、好きなことも、仕事で忙しくあきらめていた人もいるかもしれない。
今、その仕事から解放され、次の人生に向けて、違った生活もあるんだという選択の分岐点にいる。
趣味をするのもよし、好きでしょうがないことを、日本以外の国でビジネスという形にするのもよし。
彼らの好奇心が、これからかけがえのない価値になってほしいのだ。長期や永住と肩を張らずに、留学気分で第二の人生、異文化に触れ、多くの価値観を覗きに来てほしい。
風光明媚な自然と、おおらかで陽気でひかえめなホスピタリティーある人々、町並みの美しさ、治安がよい環境を持つマレーシアは、はじめて訪れる人にとてもやさしい国だ。
旅行でもなく、永住でもない、本拠地は日本に置きながらも、長期に外国に住んで、その国の暮らしに溶け込む。
そんな、第2、第3の人生があるとしたら、マレーシアはピッタリで、誰も否定はしない。一度来たら、この国の持つ活気に目をそらすことができなくなるだろう。
実にいろんな顔を持っているマレーシアは万華鏡。それを、魅力と感じて受け入れるかどうかで、あなたのマレーシアでの生活がどうなるか決まることになるだろう。それがカギだ。

 最近、世界の中での日本の薄さが気になる。アジアの国々からは、中国の台頭とバランスをとる意味でももっと日本に強くなってもらいたい、しっかりした国になって欲しいと願われている
。アジアの期待に応える国になって欲しいという声をよく聞く。
自由貿易協定の終結を取っても、日本はしがらみが多くあり、協定の呼びかけに応えられない。
アジアから見ると、日本はまだまだ、金融面では優れている国というのが強く、期待できるという考えがもたれている。
このような背景に、個人的な活動で得意とする分野で支援や協力をして理解を深め合っていくのも大切なことなのかもしれない。
 マレーシアにいることの意味、自分の役割、何がしたいのか、何ができるのかを、明確にしようとする心がもうひとつのカギとなるのだし、生活を充実させ、また自己発見の場にも結びついていくことだろう。