ここは一年中夏で、日本とおなじ夏でも違う夏だ。
なんか言っていることが矛盾しているけど、早い話が、たとえ気温が同じでもここにいて感じる夏と日本にいて感じる夏とでは違いがあるということだ。
日本では、毎年やって来る夏の伝統、歴史から教えられるもの、8月夏休みの宿題やら蚊取り線香のにおい、夜風も入ってこないけど網戸だけで寝る夜、そこから月明かりが見えること、鈴虫が鳴いていること、灼熱のアスファルトと正反対の黒い影。
テレビでやたらと多い怪談話と甲子園、花火、海に行くと浮き立つ友達、地元のお祭り、ジトッとした湿気、お盆、お墓、提灯。
これらを言葉に示すと情緒と言うのだろう。
その場にいると小さい時から生きている風習の中で、暑い夏になると必ず同じようなことを条件反射的に思う。
特に、8月は父の命日も加わった。
亡くなった人のことを思い出したり、死ぬということについて考えるようになる。
眩い青春や若過ぎるゆえに起こる何か不安な気持ちを片隅に、強い日差しのなかに明るく熱いものと、そうでないものが、いっしょに感じられる、しみじみ、でも一瞬で終わってしまう真夏の季節だ。
でももうすぐ10月になろうとしている。
日本の夏は本当に短い。
あっという間に終わってしまう。
ここはまだ夏なのに。