「個人があらわになった時、本当に必要となるものは家族や親友なんですよ。そんなことすら、この国では意外と知られていない。家族はぼんやりとした幸福の象徴なんかじゃなくて、個人があらわになった時、それがないと生きていけないくらい切実に必要とされるものなんです。そう捉えれば、家族を大事にすることがいかに大切かが社会で共有できるのに、そうはなっていない」(村上龍)
老後のとば口に立ち、これからの人生をどう生きるべきかに迷う男女を主人公にした5つの物語を収録している。
村上龍らしくないというか、以前は結構ファシズムとかハードな内容が多かったけれども、最近はごく平均的な日本人の生活や主人公を書いた作品になってきている。
そして色々な人生の中にも、人間どんな人でも希望が灯っているというポイントも忘れない。
年輪を重ねた作家は、安心感がある。
この作品は、「そうだよな、老人に近づくとこんなことを考えるようになるんだよな」と納得しながら読み進めていった。
年をとると、精神的にも肉体的にも死ぬほど頑張るという事ができなくなるので、「ある程度どれほど頑張ってもここまで」、という境界線が見えてしまう。というか、時をにはもっと頑張れるはずなのに、ここまでだろうという甘えものぞかせる。
特に年をとってくると、金銭面での余裕があるなしかがいかに精神状況に大きく左右するか、そして余裕がなければ自分の健康を切り売りするような仕事が大半になる。
職も役職も無くなってふいに裸にされたような気がする男性たち、手が離れた子供達はそれぞれ自分の人生で忙しく、親は遠くで昔こんなことがあったっけなんて思い出に浸る女性たち、でも、年老いた夫婦は、子供たちがそれぞれに充実した生活を送ってくれているだけで満足だ。
こちらもこちらで第二の人生を謳歌するのだから。
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